海外移住や長期赴任を検討する方が増える中、見落とされがちな税務リスクのひとつが「出国税(国外転出時課税)」です。資産規模によっては、出国の前日に多額の税負担が発生するケースもあり、事前の対策が欠かせません。本記事では、出国税の仕組みと対象者、猶予制度、そして実務上の注意点をわかりやすく解説します。
出国税とは
出国税(正式名称:国外転出時課税)は、2015年7月に導入された制度です。一定の要件を満たす居住者が日本から出国する際、保有する有価証券や未決済のデリバティブ取引などに含み益がある場合、その含み益を「譲渡・決済したとみなして」所得税を課税する制度です。
英語では “Exit Tax”(エグジット・タックス)とも呼ばれ、ドイツやカナダなど多くの先進国で同様の制度が存在します。
📌 ポイント: 実際に売却していなくても、出国という事実だけで課税が発生する可能性があります。
対象となる人
すべての出国者に適用されるわけではありません。以下の2つの要件を両方満たす場合に対象となります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 資産要件 | 対象資産の合計額が 1億円以上 |
| 居住期間要件 | 出国日前 10年以内に5年超 日本に住所または居所を有していた |
対象となる資産
- 有価証券(株式・投資信託・公社債など)
- 匿名組合契約の出資持分
- 未決済のデリバティブ取引・信用取引・発行日取引
不動産や現預金は対象外です。そのため、金融資産を多く保有している方が特に注意が必要です。
税額の計算イメージ
出国税は、対象資産を出国の前日に時価で譲渡したとみなして計算します。
みなし譲渡所得 = 出国時の時価 − 取得価額
税額 = みなし譲渡所得 × 15.315%(所得税・復興特別所得税)
+ みなし譲渡所得 × 5%(住民税)
= 合計 約20.315%
例:
- 取得価額2,000万円の株式が出国時に5,000万円になっていた場合
- みなし譲渡所得:3,000万円
- 税額:約610万円(20.315%)
含み益が大きくなればなるほど、税負担も相応に重くなります。
納税猶予制度
出国税には納税猶予制度があります。出国後も引き続き一定の条件を満たせば、実際に売却するまで納税を猶予してもらえます。
猶予を受けるための主な要件
- 出国前に納税管理人を選任し、税務署に届け出る
- 猶予税額に相当する担保を提供する
- 猶予期間は原則5年(最長10年まで延長可能)
猶予期間中に帰国した場合、または猶予期間満了までに対象資産を保有したままでいた場合は、課税が取り消しになる(還付される)こともあります。
猶予制度のメリット・デメリット
| 内容 | |
|---|---|
| メリット | 売却前に多額の現金を用意する必要がない |
| デメリット | 担保提供の手間がかかる/5年以内に帰国しないと確定納税となる |
贈与・相続による移転(国外転出(贈与・相続)時課税)
出国だけでなく、居住者が非居住者に対して対象資産を贈与・相続させる場合にも同様の課税が発生します(国外転出(贈与)時課税、国外転出(相続)時課税)。
海外在住の子どもや配偶者に資産を贈与・相続させることを検討している場合も、この制度の影響を事前に確認する必要があります。
実務上のチェックポイント
出国を検討している方が事前に確認しておくべき項目をまとめました。
- 対象資産の合計額が1億円以上かどうかを確認する
- 各資産の取得価額(購入時の金額)を把握しておく ※取得価額が不明な場合は時価の5%とみなされる場合があります
- 納税管理人を誰にするか検討する(税理士・弁護士・信頼できる家族など)
- 担保として提供できる資産があるか確認する
- 出国予定日の少なくとも数ヶ月前には専門家に相談する
当事務所からのコメント
出国税は、制度導入から10年が経過した今も、見落とされがちなテーマのひとつです。特に、株式や投資信託を長期保有してきた方は、含み益が積み上がっているケースも多く、出国の直前に初めて気づいて慌てるというケースを実際に見てきました。
出国の計画が固まる前の段階から、税務面での影響を試算しておくことを強くお勧めします。納税猶予制度を活用するにしても、書類の準備や担保の手配には相応の時間がかかります。
海外移住・出国をご検討の方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 国外転出時課税(出国税) |
| 対象者 | 対象資産1億円以上かつ10年以内に5年超の日本居住者 |
| 対象資産 | 有価証券・デリバティブ等(不動産・現預金は対象外) |
| 税率 | 約20.315% |
| 猶予制度 | あり(原則5年、最長10年) |
| 注意点 | 贈与・相続による移転にも同様の課税あり |
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