日本人で米国や香港などを中心に、海外資産を保有する方が増えております。海外資産を保有することはメリットも多く、当事務所でも積極的にサポートをしておりますが、どうしても忘れてはいけないのが、海外相続リスクとなります。
日本人が日本と海外に資産を保有している状態で相続が生じた場合、日本だけで相続手続きを行えばいいと想定している方もおられますが、実際には日本だけでなく資産を保有している国においても相続手続きが必要となります。
今回は日本にない海外の相続手続きのプロベイト(Probate)について記事にしております。
プロベイト(Probate)とは
プロベイトとは
遺言書の有効性の確認や、遺産に関連するあらゆる債権債務関係の確定・精算、相続人の確定と遺産の分配などを、裁判所が関与しながら進めていく手続きのことです。海外でもプロベイトは基本的に避けた方がいいという前提があり、そのための対策を準備することが多いです。
プロベイトは日本では馴染みがない制度となります。これは相続の考え方について日本と異なることによります。
相続の考え方の違い
日本の民法は包括承継主義に基づき、相続が開始すると、亡くなった人(被相続人)の財産及び債務は相続人に包括的に承継されます。
一方、米国などは精算主義に基づき、被相続人がなくなると、まず、被相続人に係るあらゆる債権債務関係を精算し、費用や税金を支払った後で、残った財産を相続人などに分配する考え方です。精算主義に基づく一連の相続手続きはプロベイトと呼ばる裁判手続きとして実施されます。
プロベイト(Probate)が必要となる国・地域
プロベイトが原則必要となる主な国・地域は、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポール、マレーシアなどとなっております。
特に、米国、香港、シンガポールにおいて海外資産を保有しているケースが多く、日本だけでなく現地での相続手続きが必要となることを念頭に生前から準備し、基本的にプロベイトを避けることをお勧めしております。
プロベイト(Probate)を避けた方がいい理由
専門性が高い
日本でも通常の相続手続きが必要となりますが、それとは別に資産を保有している海外での相続手続きが必要となります。
現地の弁護士、日本の税理士・会計士や翻訳家、必要に応じて日本の弁護士も交えて進めていくことになりますが、対応できる専門家が限定的ですので、信頼できるパートナーを探すのも大変です。
海外相続特有の日本では準備できない書類や一般的でない手続きが必要となるケースがある
米国では署名保証など、日本では存在しない手続きが必要となることがあります。
日本では一般的でなく、準備できないと主張される方もいらっしゃいますが、日本と海外は制度が異なりますので、現地の制度に対応した書類の準備や手続きを行う必要があります。
時間がかかること
米国でのプロベイトの期間としては1年以上となるケースが多く3年かかることもあります。国や州によっても異なりますが、2〜3年はかかることを想定した方がいいです。
多額の費用がかかる可能性があること
海外資産がある場合、現地と日本で相続税や相当する税金を収める必要がありますので、日本においては、現地の税務と日本の税務に詳しい税理士や公認会計士に依頼することになります。
その上で、現地の手続きを海外の弁護士に依頼することなり、翻訳作業も別途必要になることが多いです。
海外の弁護士は日本よりも単価がかなり高く、また、日本の税理士・会計士・弁護士・翻訳家も対応できる方が限定的ですので、一般的な案件よりも高いことを前提にした方がいいです。
また、必要に応じて現地に赴く必要があります。
日本での相続税の申告期限と海外での申告期限
日本の相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。
例えば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限になります。なお、この期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たるときは、これらの日の翌日が期限となります。
一方、海外の中でも米国を例にすると、米国での遺産税は相続開始から9ヶ月以内となっております。
そのため、米国での相続手続きと日本相続手続きを並行して進める必要があります。米国と日本の専門家での連携は必須となります。
プロベイトを回避するための生前対応
プロベイト手続きについては可能な限り避けた方がいいのですが、具体的な対応としては一般的には以下の通りです。
少額財産
財産共有名義化
受取人指定
リビングトラスト(生前信託)
日本法人による保有
海外遺言書作成
海外資産や口座については家族が話は聞いたことがあるけど、実際の中身はほとんど知らないというケースもあり、当事務所としては情報共有もかねて財産共有名義化を図ることをお勧めしております。また、資産管理会社での保有もお客様の状況によってはフィットするか思います。
いずれの場合でも国や州や地域によって税務・法務上の問題が出てきますので、専門家に相談することをお勧めします。
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