国外財産調書〜海外資産を保有する場合には注意したい報告調書

日本の経済が右肩上がりとは言い難い状況で、海外志向の方などを中心に資産を海外で保有することが増えております。国外に財産を保有している場合に、避けて通ることが難しい国外財産調書という制度があり記事にしております。

目次

国外財産調書制度とは

国外財産調書制度とは、日本の居住者が12月31日時点において合計5,000万円超の国外財産を保有している場合には、国外財産調書(保有する国外財産の内訳明細書)を作成して、翌年3月15日までに所轄の税務署長に提出しなければならない制度です。

近年、国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る課税の適正化が喫緊の課題となっていることなどを背景として、国外財産を保有する方からその保有する国外財産について申告する仕組みとして設けられました。虚偽の記載や、正当な理由なく調書を提出しない場合、罰則規定もあり注意が必要となります。

海外に資金を送金するのではなく、現金で持ち出すケースも増えており資産フライトの状況を国が把握することが難しいケースでも、申請が必要となる場合があります。

提出が必要となる書類

実際に提出が必要となるのは、国外財産調書と、国外財産調書合計表となります。

国外財産調書の提出が必要となる方

国外財産調書の提出が必要となるのは、日本の居住者(非永住者を除く)が12月31日時点において合計5,000万円超の国外財産を保有している個人の方となります。

日本の居住者(非永住者を除く)は、以下の個人の区分をまとめた表のうち、に該当される方となります。

区分定義細区分定義
居住者A)国内に住所を有し、又は、
B)現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有する個人
非永住者以外の居住者(永住者)A)日本国籍を有する個人、又は、
B)過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年を超える個人
非永住者A)日本国籍を保有せず、かつ、
B)過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人
非居住者居住者以外の個人
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国外財産調書制度の対象財産

国外財産調書制度の対象となる国外財産は、国外にある財産の全てとなります。財産については債務と相殺した後の金額ではないことに注意が必要です。

仮にハワイにおいて時価6,000万円のコンドミニアムを、自己資金2,000万円と銀行借入4,000万円で購入する場合。

資産から債務を控除した純資産としては2,000万円ですが、財産という点では6,000万円となります。国外財産調書としては、債務を相殺せず6,000万円を不動産として記載して国外財産調書を提出することとなります。

国外にあるかどうかについては、財産の種類ごとに判定を行うこととなります。

国外財産の所在地

現時点では仮想通貨(暗号資産)は国外転出時の課税対象資産には含まれておりませんが、本来は対象資産に含まれていてもおかしくない資産かと思います。代表的な財産について表にまとめております。

財産の種類所在地の判定
不動産不動産の所在地
動産動産の所在地
預貯金預貯金の受入れをした営業所又は事務所の所在地
有価証券等有価証券の発行法人の本店又は主たる事務所の所在地
ただし、金融機関の口座で管理されている有価証券については、その金融機関の営業所等の所在地
保険契約に係る保険会社等の本店又は主たる事務所

国内のネット証券で保有する米国株式

日本の株式は長期的に上昇しているとはいえず、長期的に上昇を続ける米国株式に投資をする方が増えております。また、海外志向の方で海外の証券口座を保有しており、日本への投資も海外口座から行う方もいらっしゃいます。

有価証券は、有価証券の発行法人の本店又は主たる事務所の所在地。ただし、金融機関の口座で管理されている有価証券については、その金融機関の営業所等の所在地で判定することになります。

金融機関の所在地と有価証券の発行体の所在地から整理すると以下の通りとなります。また、簡単な事例についても記載しております。

出所:国税庁FAQ

日本の証券会社で米国株式を保有しているケース

仮に沖縄県那覇市に住んでいる方が、SBI証券でNASDAQに連動するETF(QQQ)やS&P500に連動するETF(VOO)に1億円投資しているケース

QQQもVOOも海外ETFですので、直感的に国外財産に該当すると感じます。ですが、SBI証券という国内の金融機関の口座で管理しておりますので、国外財産に該当せず国内財産となります。

米国の証券会社で米国株式を保有しているケース

仮に愛知県名古屋市に住んでいる方が、Interactive BrokersとFirstradeでAppleやTeslaに1億円投資しているケース

AppleもTeslaも海外株式であり、Interactive BrokersとFirstradeという米国の証券で保有されております。米国の金融機関の口座で管理しておりますので、国内財産に該当せず国外財産となります。

香港の証券会社で日本株式を保有しているケース

仮に大阪府大阪市に住んでいる方が、香港のBOOM証券で東証に上場しているトヨタやソフトバンクに1億円投資しているケース

トヨタもソフトバンクも日本株ですので、直感的に国内財産に該当すると感じます。ですが、BOOM証券という国外の金融機関の口座で管理しておりますので、国内財産に該当せず国外財産となります。

国外の仮想通貨取引所で保有する仮想通貨

日本の仮想通貨取引所は、コインチェックにおけるネム流出事件後は元気がなく、海外の仮想通貨取引所で取引される方も増えているかと思います。

仮想通貨は、国外送金等調書規則第12条第3項第6号の規定により、財産を有する方の住所(住所を有していない場合は居所)の所在により「国外にある」かどうかを判定することになります。

仮に東京都千代田区に住んでおり住民登録している方が、海外の仮想通貨取引所のBinance(バイナンス)で取引しており、仮想通貨を保有しているケース

有価証券であれば証券会社の所在地を気にするため、Binance(バイナンス)の所在地が気になるかと思います。しかし、仮想通貨については仮想通貨取引所の所在地ではなく、財産を有する方の住所が重要となります。

そのため、Binanceで仮想通貨を保有している場合でも、財産の所在地は東京都千代田区となります。

日本の居住者の方は日本に住所がありますので、国外の仮想通貨取引所に保有する仮想通貨は、そもそも国外財産に該当しないため、国外財産調書への記載対象になりません。

虚偽記載や不提出の罰則

国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合(虚偽記載)又は国外財産調書を正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合(不提出)には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることがあります。ただし、期限内に提出できず、遅れて提出した場合には、情状により、その刑を免除することができることとされています。

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