IT技術の進歩により海外にいながら日本の仕事ができたり、LCC(格安航空会社)の登場により渡航コストが大幅に下がり、多くの方が日本だけでなく海外拠点をもって生活できる環境になりつつあります。
働き方改革で在宅勤務が導入されている会社も増え、日本と海外を行ったり来たりする生活も夢ではなくなり、現実的なアイディアになってきています。
その生活を実際に行っている終身旅行者について紹介致します。私も一時期同様の生活を送っておりました。
終身旅行者(Permanent Traveler:PT)とは
定期的に住む国を移り、どの国でも非居住者となり、各国での税負担を最小化するライフスタイル。以前は一部の富裕層が節税目的に実行していたライフスタイルですが、最近だと少し意味合いが変わった気がします。「旅するように生きる」その様なライフスタイルが近いと思います。
どの国でも非居住者に該当するケースは継続することが難しいので、この記事では、海外での生活を中心とし、目的ごとに国を使い分けるケースを前提にしております。
非居住者に該当するかどうかによって税負担なども大きく変わってきます。
終身旅行者になる目的
税負担の最小化だけでなく、複数の国や生活コストが低い国でのビジネス展開や、子供の教育など、目的は多様化しております。
日本で生まれれば、日本の学校に入り、日本の会社に務めて、日本で家を買い、定年まで同じ会社に在籍し、引退後は貯金と年金で余生を過ごすのが一般的なライフスタイルでした。人口が増え、経済が拡大しているなら、このライフスタイルも機能するのですが、日本の人口が減少し始め、経済の拡大が続くかわからない状況ですと、生活や資産が固定化されてしまうのは大きなリスクとも考えられます。また、ビジネスや投資でチャンスがある場合も、リスクを取って挑戦しにくくなります。
そこで、より柔軟性を持たせるために、1つの場所に全てを固定化しない終身旅行者になる、又は、考え方を取り入れることは有益と感じます。
終身旅行者(PT)にとって最も大切なのは、目的別に複数の国を使い分けること。その際に、5つのフラッグをもとに考えて行くことになります(5フラッグ理論)。
5フラッグ理論
目的に応じて複数の国を使い分け、それらが5つに分類されているので、5フラッグ理論と呼ばれております。5つについては以下の通り。
- 国籍を持つ国(パスポートを持つ国)
- ビジネスを営む国(所得を得る国)
- 居住を持つ国(住所として家を持つ国)
- 資産運用を行う国(銀行・証券口座をもつ国)
- 余暇を過ごす国(自分の趣味・生きがいを実現する国)
PTのメリット
PTになることにより、当初意図していた目的を果たすことができ、人生の目標を達成する事ができます。
PTのデメリット
理論的には実践可能でも、食事や気候の問題等、実際に海外で長期間生活するのは難しいです。
子供の学校がある場合、頻繁な移動は難しく、特定の国でのVISA取得などの対応が必要となります。
終身旅行者を辞めたあとのことも考えておく必要あります。
PTになるために欠かせない非居住者とは
非居住者とは、居住者以外の個人となります(所得税法2条1項5号)。
非居住者を理解するには、居住者についても理解する必要があります。
区分 | 定義 | 細区分 | 定義 | 課税の範囲 |
居住者 | A)国内に住所を有し、又は、 B)現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有する個人 | 非永住者以外の居住者(永住者) | A)日本国籍を有する個人、又は、 B)過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年を超える個人 | 国内及び国外において生じた全ての所得 |
非永住者 | A)日本国籍を保有せず、かつ、 B)過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人 | 国外源泉所得以外の所得及び国外源泉所得で日本国内において支払われ、又は国外から送金されたもの | ||
非居住者 | 居住者以外の個人 | 国内源泉所得 |
出所:非居住者と居住者の違い
外国に1年の半分以上滞在していれば、非居住者になると考えている方もおりますが、実際には日本の居住者になる場合があります。特に、税負担の最適化も視野にしれている場合には、必ず専門家に相談の上、積み上げ証拠を準備することをお勧めします。
非居住者になるための証拠と手続き
日本の非居住者とみなされるための積み上げ証拠と手続きは以下の通り(参照:終身旅行者PT 木村昭二)
項目 | 内容 | 備考 |
住民票 | 住所異動届書の提出 | |
確定申告 | 確定申告又は納税管理人の届出書の提出 | |
健康保険 | 加入抹消 | *1 |
年金手続 | 国民年金諸届書などの提出 | |
携帯電話 | 解約 | *2 |
インターネットプロバイダー | 解約 | |
郵便 | 外国来郵便物の国外転送請求の提出 | |
銀行口座 | 居住性変更に関する届出書などの提出 | *3 |
証券口座 | 口座解約 | *3*4 |
クレジットカード | 海外転勤届などの提出 | *3 |
生命保険 | 海外渡航通知書などの提出 | |
確定拠出年金(iDeCo) | 国内代理人届の提出 | *5 |
県民、都民共済 | 解約 | |
運転免許証 | 国外運転免許証取得、滞在国免許証取得 | |
自動車 | 保有しない | |
在留届 | 在外公館に提出 | |
国籍 | 外国国籍選択の場合、国籍喪失届を提出 | |
海外渡航日数 | パスポートから日数表を作成する | |
資産割合 | 日本が少ない方が良い | *3 |
不動産 | 居住用不動産は持たない。賃貸不動産はOK | |
会社役員 | 避ける | *6 |
同居家族 | 国外に帯同 | |
国外居住 | 国外での不動産賃貸契約書を保存 | |
国内帰国時の滞在 | 1年以上の居住にならないホテル滞在など |
*1 私が海外生活を行なっていた時は、医療費はAIU保険でほとんどカバーしておりました。ただ、歯科治療は保険適用外のため、出国する前に歯科治療は全て終えた方がいいです。
*2 日本の携帯電話番号を残すかどうかも結構悩みます。基本的に解約した方がいいので、携帯電話番号ではなくSkype番号や050などのIP電話サービスを日常的に使用していれば、日本の携帯電話を解約した際にもデメリットは少ないかと思います。
*3 海外生活を前提として、日本で生活している段階から、非居住者でもサービスを提供する金融機関を利用したり、資産運用を行うことで、出国へのハードルを下げられます。
*4 非居住者になった場合、特定口座とNISA(ジュニアNISA)の利用はできなくなります。一般口座について証券会社によっては維持できますが、取引が制限されるため、原則として解約した方がいい思います。
*5 確定拠出年金(iDeCo)は原則として解約することがでず、これは非居住者になっても同様です。一定の要件を満たした場合には解約することができますが、要件を満たすことは難しいです。
*6 日本法人が不要な場合には、海外で法人を設立して運営するのも選択肢に入るかと思います。ネットでの収入がメインの場合、法人運営をリモートでできるエストニアに法人を設立するのもありですが、使いこなせるパターンは限定的です。
実際に終身旅行者になって感じた事
日本の非居住者になり、終身旅行者になるのは意外と簡単。続けるのは大変。でもいつでもやめられる。
私の場合、妻と結婚してすぐに2人とも会社を退職して日本の非居住者になり、台湾などの東南アジアで生活しました。
特別な手続きとしては区役所での海外への転居届だけ。私は日本で不動産や車を所有しておりませんでしたので、家財道具のほとんどを処分し、様々な契約を解約等して手続きの殆どが終了。
日本から出国する際は、健康保険も国民年金にも加入せず、AIUの保険だけでに入っておりました。
大学や語学学校へ留学していたため、現地の健康保険に加入できましたが、AIU保険だけで十分と考え加入しておりません。
資産運用は日本ではなく、米国で行っていたため、日本の非居住者になっても運用方法は全く変わりません。非居住者になる前となった後で、何も変わりが無い様に意識的に準備をするのがいいと思います。
海外生活は楽しいのですが、いいことばかりではありません。私は希望して海外生活を始め、現地のビールの方が日本のビールよりも美味しいと思っていましたが、半年経った頃から突然プレモルが飲みたくなり、それ以降はほとんど日本のビールを飲む様になりました。食事についても同様の事が言え、日本食が美味しいお店が多くあればいいのですが、街で一つしかないとなると、飽きてきます。同じメニューばかり選んでいると栄養バランスも崩れてしまいます。
最終的には日本に帰って居住者に戻りましたが、区役所で転入届を提出し、健康保険に加入するだけで手続きを終えました。
実際に終身旅行者を目指すか
我が家は妻と子供が海外(台湾)で生活することを視野にいれておりますが、私は日本で仕事をする前提でおります。同居家族の要件を充足しないため、妻と子供が非居住者として認められない可能性があります。
節税ではなく教育を目的として海外に移る場合、あまり問題になることはないと思いますが、仮に日本での税負担を軽減したくなったら、自分も日本から海外に移ることが必要になります。
多くの方にとっては、実際には終身旅行者になるというより、終身旅行者の考え方を取り入れたライフプランを立てて、実践していく事が現実的かと思います。
計画は頭の中だけではなく、資料にまとめることをオススメしております。資料にまとめる過程で、海外に出るのを阻害している要因が明確になり対応策に繋げていけますし、その資料が今後の人生の設計書になっていきます。
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